ネジバナ


雑草の中では一番の美人

「みちのくのしのぶもぢずりたれ故に 乱れそめにしわれならなくに」 百人一首の源融の歌にある「しのぶもぢずり」は信夫の里(福島県)の 捩摺(もじずり)染めの布という。

その乱れからまる模様に恋心を託した のだが、草花のネジバナをモジズリと 呼ぶのもそれに由来するらしい。

日当たりの良い草地に生える可憐なネジバナが目をよろこばせてくれる 梅雨の中休みだ。
その名の通り5ミリぐらいの桃色の小さな花が、らせ ん状に連なる姿は都会でも楽しめる。 本誌東京版は、江東区役所の 駐車場脇の芝生で大小60本あまりが咲き始めたことを伝えていた。

草野双人さん(2人のペンネーム)の「雑草にも名前がある」 (文春新書)は、
このネジバナを「雑草の中では一番の美人」だとして、清楚なたた ずまいをたたえている。

もっともあまりの美しさに鉢や庭に植え替えようとしてもうまくいかない。 ネジバナの不思議な魅力は、やはり野にあってのものという。

花のらせんの巻き方は、時計回り、反時計回り、両方あって、その割合は 半々ともいわれる。
他のほとんどの植物のツルの巻き方などはどちらか 一方に決まっているのだが、その点でもユニークな存在だ。なかには ねじれないで直線的に花をつけるひねくれ者ならぬ真っすぐ者もある。

学名スピランテスというラン科の多年草である。
いわれてみれば花の ひとつひとつは小さいながらランの形をしている。

ランの仲間の多くは 人の助けがなければ育たない。その中にあって都会でも自生する生命力 の強さは草野さんの著書も特筆している。

一本一本が個性的、他の植物に負けぬ生命力をもちながら清楚な美を 失わない。しかも人間の世話にはならない気位の高さだ。
この「雑草」、ただ者ではない。

            平成16年6月17日  毎日新聞より



      
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